[友達について] S先輩
初出日付:8/29 2011
関西の芸術大学に入学した後、課外活動として音楽サークルに所属したのだが、その団体の中にSという先輩がいた。彼は年齢で言えば自分より三つ年上で、自分が新入生時に四回生であったはずなのだが、学校を退学だか休学だかして、遊んでいた。当時はべつだん普段に仲良くしていたわけでは無かったのだが、そのサークルの主催するコンパにて終電を逃し(帰る気が全くなかった)、会場となっていたサークルの部室に残って、一人また一人と大学近所に下宿している者達を見送っていた際、S先輩が、帰るところがないならうちに来るかと誘ってくれたのであった。芸術大学という場所には、さぞや突飛な人物が跳梁跋扈しているのだろうと楽しみにしていた私は咄嗟「この人は同性愛者でおれを犯したいのだな」などと案じつつ、しかしその想像と判断は全く結びつかず、S先輩のバイクを二人乗りして、朝方、彼の家に向かった。
思えばその人物の奇特性と性向の間には特に相関はなさそうなのだが「何が起こってもおかしくはない。それが芸大」と全く根拠無く考えていた私はとにかく平時どんな突飛なことが起こるかもしれない、と心持ちの上では準備していた。
S先輩の家に着くと彼は毛布をソファに置き「其所で寝ろ」と指示した後、隣の部屋でぐうぐうと寝てしまった。私は安心とも肩すかしともつかぬ心境で横になった。しかし三十分ほど後だろうか、S先輩がしゅるしゅると妖怪のように忍び歩いて私が寝ているソファの足下に座った。私は「やはり来たか」と覚悟を決めた。
S先輩が私に起きているのか、寝ているのかと問うた。私は「起きています」と答えた。S先輩はつづけて「お前に好きな人はいるのか」と聞いた。私はいよいよもって彼の目的が私のボディであると確信した後、しかしその期待に答えられそうも無い自分を少しく残念に思って「います」と答えた。S先輩は「あいつだろう」と同じサークルの私と同い年の女子の名を挙げた。その娘と私は郷も近く、お互いの滅裂な思考が時折交差するような瞬間があって、不思議なシンパシーを個人的に感じてはいたが、それは恋愛の情とは違っていた。そして私はその現在に交際している女性が他の学校にいることを明かした。S先輩は「そうか」とだけ言い、またも寝床に戻っていった。
なにかすまないような気分になった私は、S先輩に向かって「私とやりたいのですか?」と聞いた。S先輩は「アホか」と答えた。私は「どうしてもと言うなら、考えますけど」と再度言った。その後S先輩はなんと言ったのか憶えていない。しかし数ヶ月後、S先輩は、私に好きなのかと問うた女学生と交際するようになった。
その夜以降、S先輩とよく遊ぶようになった。どうせ毎日一緒に遊んでいるからと彼の住むマンションの同じフロアに空きが出たときはそこに引っ越そうとさえした。学校を既に辞めていた彼と、授業に全く出なかった私は、年齢を超え、お互い積極的に退屈と無為を共有した。S先輩については書くことがたくさんあるが、手始めに最初の夜について書きたい。書いた。

- 初出日付:8/29 2011
- 最終更新日付:8/29 2011
- 文章を書いたひと:@saigoofy
- この記事についてTwitterでコメントする